
最近妙に友人Aくんのことを考える。今日こそメールしよう、と思っていたら当のAくんからメールが来た。
「リエ、元気ですか?最近妙にリエのことを考えます。」
以心伝心。ここまではよくある話である。ところが、よく「ない」のはこの後であった。
「僕は今フィリピンのマニラにいて、来週バリに行こうと思っています。リエは今どこにいるんだろう。ヨーロッパ?南米?アメリカ?もし東京にいるのなら、帰りの便が東京経由なので、数日東京に寄ろうかと思うんだけど。」
何だって!?マニラにいる?バリに来る?
私はもちろん即効で返事を書いた。
「私は今バリにいるんだよ!おいで!」
この話には伏線がある。
フランス語圏カナダ人のAくんとは2年前に大阪の友人宅で知り合った。モントリオールの大学でダンスと演劇を専攻する学生であり、ストリートパフォーマーでもあるAくんは、そのときアジアを旅していて、大阪の知り合いの家に泊まっていた。私はちょうど広島での友人の結婚式を兼ねて山陽地方を旅した帰りに大阪に立ち寄り、同じ大阪の友人宅に泊めてもらった。つまり、私たちは寛大な大阪の友人宅の居候同士だったのである。
とてもオープンな心を持つAくんとすっかり意気投合し、ちょうど東京に向かうところだった彼と、東京に帰る私は、一緒の高速バスに乗り、3人暮らしの私の下宿先に居候として連れ帰った。翌日は近所の神楽坂を案内し、飯田橋の交差点のところで靖国神社に行くという彼を見送って別れた。
時は流れて去年の夏、Aくんはストリートパフォーマンスをしながらヨーロッパを旅していた。私も当初の予定では夏はヨーロッパの予定だったので、再会を約束していたのに、私の東南アジア滞在が予想以上に長引き(そして今に至る)、かなわなかった。そのときAくんは、今年初めにLAに転居する予定だから、再会は中米か南米あたりだね、と言っていたので、私はてっきりAくんはLAにいるものと思っていたのである。それがまさかマニラに来ていて、翌週バリに来ようとは!
果たしてAくんはウブドへやってきた。デンパサールからベモ(地元の人が利用するオンボロの乗合バス)に乗って。そして私たちは、飯田橋の交差点で別れて以来2年振りの再会を、ようやくここウブドで果たしたのである。
私のバリ芸能への愛と情熱を分け合うのに、Aくんほど恰好な相手を他に知らない。私は大喜びでお気に入りのグループの公演に、Aくんと、Aくんがデンパサールで知り合ったという、これまたオープンな心を持つスイス人のSくんを連れ回した。その公演のどれもがいつもより素晴らしく、これはきっと、いいものを見せたいという私の気合いがグループの人々に伝わったに違いないと、一人私は悦に入った。
さらに、私はジャワ島ジョグジャカルタでお世話になった日本人IさんのゲストハウスへAくんを送り込んだ。Iさんはインドネシア語も堪能だが、フランス留学経験もあってフランス語も堪能なのである。私がファンクラブ副会長を務める、Iさんのお抱え運転手で生粋のジョグジャ人Nさんとも、Aくんはすっかり意気投合したようで、兄弟のようだった、と後日Iさんから電話でご報告をいただいた。
「私はなんだかAくんが息子みたいに思えるんですよ」と言う私に、
「あら私もなんだか孫ができたみたいだったわ」とIさんは言って、二人で笑った。
日本人の母と祖母を獲得したAくんは、今頃モントリオールの空の下でクシャミをしていることだろう。