
「僕はbodoh(ばか)」とJは言う。もう15年も日本人のお客さんに接していて、日本語を覚えようとしているのに、ちっとも覚えられない、と。
Jは旅行者にバイクタクシーやチャーターツアーなど、トランスポートサービスを提供する仕事をしている。バリに来たことがある人なら誰でも知っている、街でトランスポート、トランスポート、タクシー、タクシー、とやっているあれである。普段は縁がないのだが、どうしてもデンパサールの入国管理局に出向かなければいけない用事が生じ、ドライバーが必要になったとき、以前泊まったゲストハウスに出入りしていたJが頭に浮かんだ。
なぜかと言えば、軒並み押しが強いトランスポートおじさんたちの中で、Jは伏し目がちで、とても押しが弱かったのである。その実直そうな態度が気に入った。
つてを頼ってJに連絡を取ると、「このばかのことを覚えていてくれてありがとう」と言う。
用事を済ませた帰り道、街のある一画に差し掛かったとき、「この辺りにはコミッション目当てで旅行者を強引にギャラリーに誘う人たちがいるから、気をつけないといけないよ。」とJは教えてくれた。「目先のことしか考えていない。将来のことを考えていない人たちなんだよ」と。
私は、Jはちっともばかじゃない、と思った。