
二人の友だち、オランダ人のRさんとアメリカ人のLさん(いずれも女性)に別々のタイミングで同じ本を薦められた。ベストセラーになっている”Eat, Pray, Love”というその本を、海辺での休暇中に一気に読んだ。
ライターを職業とする著者の女性が私的な体験を描いたもので、人も羨むようなキャリアと結婚生活を持つ彼女が、30歳を目前に「そろそろ子どもを持って家庭に納まる」という夫から期待されている役割をどうしても受け入れられずに悩んだ挙げ句、家を出る。前後してソウルメイトのような若い恋人ができるが、強く惹かれ合いながらも、二人の関係はうまくいかない。離婚問題の泥沼化と恋人との問題で精神的に参った彼女は、仕事を辞め、1年間の旅に出ることを決意する。
最初の4ヶ月はイタリア、ローマで、実用性はないけれどもその音が好きだというだけの理由でイタリア語を学び、イタリアの食を堪能する(Eat)。
次の4ヶ月はインドのアシュラムで、瞑想とヨガの禁欲的な日々を送る(Pray)。
最後の4ヶ月はバリ島ウブドのバリアン(メディスンマン)のところに通って、英語を教えながら、彼のアシスタントのようなことをする。そのうちブラジル人の男性と知り合って恋に落ち、現在はアメリカとブラジル半々で暮らしている(Love)、という話である。
結論から言うと、私は勧めてくれた友だちほど刺激を受けなかったのだけれども、驚いたのは自分に関係のあることが余りに多かったことである。
その1. 実は私の大学の専攻はイタリア語である。それも音が好きだというそれだけの理由で選んだ。
その2. この本を読む直前まで、ヨガ教師認定取得コースの通訳の仕事に入っており、ヨガとか瞑想という話題はとても身近なものだった。
その3. バリ島ウブドの部分は、まさに今の自分の生活圏である。
その4. ブラジルは私が大学の卒業式の翌日から1年間を過ごした愛着のある国であり、第二の故郷と慕っている場所である。
そういう意味では、このタイミングでこの本を読んだことに不思議なご縁は感じるのだが、なぜ私にとってそこまで刺激的ではなかったのか。
勧めてくれた友だちほど英語の言葉の妙を味わえないからか。
離婚や失恋の心の痛手は当人にとってみたら地獄の苦しみだけれど、世界で多くの人たちが苦しんでいる戦争や飢餓や天災や犯罪や病気というもっと理不尽な問題から見ればちっぽけなことだと思ってしまうからか。
1年間の旅の体験を書く、という出版社との契約付きの旅の仕方にマーケティングの匂いを感じてしまうからか。
著者が親友になるバリ伝統医療のヒーラーの女性が、実際会ってみたら感じが悪くて失礼だったからか。
多分そのどれも理由の一部ではあるのだが、最もしっくりする理由が見つかった。
つまり、旅文学としては沢木耕太郎の「深夜特急」が面白すぎるのである。
まあでもこれはあくまで私の好みの問題で、一人の女性がもがいてもがいて出口を見つけていく過程を正直に見つめた記録としては、人の心に響くものがあるのだろう。私にとっては、好きなことは実用性など考えずやっちゃっえ、という彼女の痛快な決断の部分の方が刺激になったけれども。
そんなわけで、興味のある方はご一読ください。