朝7時にルーテンを出発する。途中別のホテルからオランダ人の若いカップルをピックアップし、4人での道行きとなった。いい車で快適だが、とにかくカーブの多い山道で、車酔いしやすい私にはちょっとつらい。ドライバーはサービス精神たっぷりで、ところどころ撮影スポットに止まってくれる。
途中、車の前に飛び出してきたバイクにドライバーがなにやら悪態をついた。インドネシア語は分からなくても今のはみんな分かるよね、と同乗者みんなで笑った。「今、なんて言ったの?」とドライバーに聞いてみると、「Telur bodoh!」と言ったという。日本語に訳せば、「ばか卵!」なんだか可愛らしい悪態である。それから各国語の悪態についてみんなでひとしきり盛り上がった。
ドライバーにバジャワの宿情報を聞いたら、私がもともと泊まろうと思っていた宿を勧めてくれ、電話で確認を取ってくれた。15万の部屋が2つと20万の部屋が1つ空いているという。オランダ人カップルはOKとのことだし、午後のツアーが控えていて宿探しに時間をかけたくないので、私が犠牲的精神を発揮して20万の高い部屋を取ることにして、そのまま予約を入れてもらった。Dくんは一連の話を聞いて納得していたのかと思ったら、「なんで勝手に予約入れるの」とどうやら不満だったらしい。彼は現地についてから宿を探す派で、予算も10万以下なので、15万は高いのだ。けれどつたないインドネシア語をフル回転してみんなのために一連の交渉をしていたのは私だし、午後のツアーも控えているし、ドライバーは自分の携帯でわざわざ予約を入れてくれたのだし、私は15万の部屋を譲ってあげたのだし、と内心ちょっとむっとする。いつも一人で旅をする私は、連れがいるとこういう不満や行き違いがあって喧嘩したりするんだろうなあ、とちょっと自分の心の動きがおもしろかった。もちろん連れがいる良さというのもやっぱりあるのだけれど。
お昼頃バジャワに到着し、予約したホテルにチェックインする。ふたを開けてみると、20万と15万の部屋にはほとんど違いがないのだった。あえて違いを探せば、15万の部屋は道路側で、バスルームが少し小さく、ベッドメイクがアメリカ式にシーツをたくしこんでいないことくらい。私はシーツをたくしこんだベッドは嫌いだし、バスルームが広くても意味がないし、道路側でもバジャワは静かな街なので問題ないのだった。なんのために私は5万も余計に払わなければならないのだろう。
さて荷物を置いて、ツアーに出発する。まずはレストランで昼食。そして最初の目的地である伝統村ベナ村に向かった。ベナ村までの道はかなりの悪路である。遠目に集落を見ると、なんとなく合掌造りの白川郷を思わせる。
受付で5,000ルピアの寄進をし、村の中を見学する。広場を囲うように家が並んでいる。不思議な石の構造物がところどころにある。
家の壁にイエス・キリストやマリアの絵が飾ってあるところを見ると、キリスト教のようだ。伝統的な村にキリスト教が入っているのが不思議な感じがする。女の人たちはシリーという嗜好品(キンマと思われる)を噛み口の中が真っ赤だ。めいめいが織物を体にまとっている。
大量の炊き出しをしているので、今日は何かあるのですかと聞くと、今朝亡くなった人があって、お葬式があるのだそうだ。
やがて広場でお葬式が始まった。カラッと晴れた空の下で賑やかに行われる明るいバリのお葬式とは違って、しめやかなものだ。雨も降り出し、寂しさをかき立てる。やはりキリスト教式で、村人たちが西洋音階の美しい賛美歌を歌い出したときには、幻想的な美しさを感じた。
Fさんという日本人旅行者に会った。たまたま通りかかったトラックに拾われて来たものの、帰る手段がないという。私たちのドライバーと交渉してみると、街まで5万とちょっと高い。しかし他に手段がないので困っていたら、ベナ村の人たちが「かわいそうだから、乗せていってあげて」と同情してくれ、ドライバーも値段を3万に下げてくれた。それでFさんも乗せて出発した。ベナ村の人たちのやさしさに感動した。
車の中で聞いてみるとFさん、僻地好きのようで、インドネシアを初めて旅したのはマルク諸島。今回はバリ島には目もくれずフローレス島に来て、このあとはスンバ島に行く予定とのことである。Fさんを街中のホテルに落とし、私たちは次の目的地ソア村の温泉へ向かう。
ソア村温泉に到着したのときはもう夕方だった。入口で入場料1万ルピアを払って中に入る。源泉から川に流れ込む温泉は場所によって温度が違い、好きな温度で入浴することができる。温泉好きの私にはたまらない。のんびりと完璧な温度のお湯に浸かりながら、バジャワにもう一泊して翌日またこの温泉に来ようと決めてしまった。
ソア村を出発したときはもう日が暮れかかり、ホテルに戻ったときはとっぷり日が暮れていた。ドライバーも宿に一泊して翌日マウメレに向かうことになり、またモニ行きを私たちに持ちかけてきた。私はバジャワに残ることに決め、Dくんは考えるという。オランダ人カップルはローカルバスでモニに向かうつもりだったが、空で走るよりもとドライバーが10万まで折れ、話がついた。ローカルバスでも9万するので、あの快適ないい車で10万ルピアはかなりのお値打ちである。
オランダ人カップルと連絡先を交換し、部屋に荷物を置いて一休みし、Dくんと散策に出た。スーパーでどんなものを売っているかチェックすると、意外にハイカラなものがいろいろ売っているのに驚いた。スーパーの女主人に近くにおいしい食堂があるかたずね、教えてもらったパダン料理の店へ行って、夕食を食べた。 食堂から宿に戻ろうとしたら道に迷ってしまった。バジャワの街は放射状になっていて、分かりづらいのである。道行く人に道を聞くと、みんなとても親切に教えてくれる。
宿に帰り着き、入浴用のお湯を頼む。ここでもバケツ半分のお湯に水を出して、バケツ一杯の水で入浴を済ませた。バジャワはルーテンよりもさらに寒い。やはり長袖に毛布で寝た。