
とても欲しいのだが買えない本がある。「1930年代のバリ」という写真集。高価だということもあるが、旅人は荷物が増やせない。重くてかさばる本は最も買えないものである。どうしても読みたくて借りられないものは、売るつもりで買うのだが、写真集のような保存版のものはそういう気にならない。そんなわけで、いつも本屋でこの写真集の表紙を物欲しげに眺めている。
さて、なぜこの写真集がそんなに欲しいかというと、1930年代のバリにとても興味があるからだ。
オランダは1597年にバリ島を「発見」したが、19世紀に入るとインドネシア諸島を植民地化し貿易を独占するために、力ずくでバリ島支配に乗り出してきた。19世紀半ばから半世紀にわたる戦争の末、列強への屈服を拒否するバリの王族たちは名誉と尊厳を守るため玉砕の道を選び、壮絶な死を遂げたという。このダーティなイメージを払拭するため、オランダはバリ島を観光地としてプロモーションし始めた。1930年代にはクルーズ船や億万長者たちのヨットが定期的に訪れていたという。
こうした時代を背景に、この島に魅せられたロシア-ドイツ人芸術家ヴァルター・シュピース、オランダ人画家ルドルフ・ボネなど、ヨーロッパの芸術家たちが住み着き始め、バリ絵画のスタイルに大きな影響を与えた。シュピースは今のケチャの形式を考案した。1930年代のバリは、ヨーロッパとバリのアートが混血し、新たなものが胎動する、そんな時代だったのだと思う。
この辺りの話に興味のある方は、「バリ、夢の景色 ヴァルター・シュピース伝」(坂野徳隆/著 文遊社/刊)という本が素晴らしかった。是非ご一読ください。