2008年10月18日土曜日

フランジパーニ(香りの記憶)


8年前に初めてウブドを訪れたとき、空気の中に混じっている甘い花の香りに陶然となった。その香りを持って帰りたくて、イメージの近いブレンドのマッサージオイルを買って帰ったのだが、当然のことながらしばらくしてそのオイルは使い切ってしまった。

それ以来、その香りを探し続けていたのだが、考えてみれば香りを探すというのはとても難しい。音楽ならば歌ってみせることもできるし、歌詞を手掛かりにインターネットで検索することもできる。でも香りは表現のしようがない。

再会は去年、意外なところで訪れた。飯田橋のネイルサロンである。爪用オイルの香りに、「あっ!」と記憶が蘇った。もちろんそのオイルを買って帰ったが、それが何の香りなのかは、相変わらず分からないままであった。

ようやく香りの主に辿り着いたのは、今年の1月、チェンマイだった。お寺を散歩していたときに、前々からとても好きだった花が地面に美しく散っていたので拾い上げてみたら、それがまさにあの香りだったのである。何のことはない、顔と香りを別々に知っていたのだった。

フランジパーニ。ハワイではプルメリアと呼ばれる可憐なこの花は、インドから東南アジア一帯、ハワイに生息するが、意外に原産地はメキシコからカリブ海一帯だという。タイではよくお寺に植えられており、ラオスではチャンパと呼ばれて国花になっている。バリではジェプン・バリと呼ばれるそうで、よく宗教儀礼に使われる。

白いビロードのような花びらの中心が、うっすらと黄色く色づく。清楚で可憐な外観とは裏腹に、甘く官能的な香りを放つ。この花が私はとても好きである。

蛇足になるが、香りと言えば、「香水」という素晴らしい小説がある。Patrick Süskindというドイツ人作者のプロットもストーリーテリングの手法も見事なら、池内紀さんの翻訳も秀逸である。未読の方は是非、秋の夜長にお楽しみ下さい。