
私の部屋は夜になるとガムランが聞こえてくることがある。家にいながらガムランが聴けるなんてなんてぜいたくなんだろう、それにしてもあの音はいったいどこから聞こえてくるのかしら、と常々思っていた。昨日はいつになく朝から、かなり大きな音量で聞こえてきて、空気が金粉で満たされるようでうっとりした。子守のKさんに聞いてみたところ、その音の出所は近くの高校で、高校生たちの練習だということが判明した。さすがはウブドである。
さて、「空気が金粉で満たされる」と書いたが、これには元ネタがあって、私の持っているガイドブックがガムランを「黄金のような音色をまき散らす」と表現しているのである。適確な表現だなあと感心していたら、思い当たったことがある。
ニューサイエンスの旗手、ライアル・ワトソンの「未知の贈りもの」という名著の中に、著者がインドネシアの小島(名は明かされていない)で出会ったティア(仮名)という少女の話が出てくる。彼女には超常的な力があって、未来を予知したりするのだが、音を色で表現するのである。本が手元にないので具体的に引用できなくて残念だが、サギの鳴き声や、波の音、人の声が、色として見えるのである。著者は最初、詩的な表現だと思って聞いているが、どうも違うらしいということに気付く。少女にたずねると、かえって「あなたには見えないの?」と驚かれるのである。
後で別の本を読んで知ったのだが、この現象を「共感覚」というらしい。大半の人間には五感があって、普通はそれぞれが分離されているが、これが未分化で、ある感覚と別の感覚が融合している人が、ティアのように超常的な能力がなくても、稀にいるそうだ。融合のパターンにはいろいろあって、ティアのように音を色として知覚する人もいれば、味を形として知覚する人もいる。
私のように五感が分離されている大半の人も、根っこの方ではまだつながっていて、太古の記憶のように、融合した感覚を感じることができるのではないか。ガムランの黄金色を私たちはかすかに「見て」いるのだと思う。
(この原稿を書いているときに、ライアル・ワトソン博士が今年の6月25日に69歳で亡くなっていたことを知った。心からご冥福をお祈りします)