プリアタン村でチャロナランが行われた。
チャロナランというのは悪魔祓いの劇だが、プリアタン村ではその昔これを行わなかったところ、疫病が流行したくさんの人が亡くなったので、必ずやるようになったのだと、以前プリアタン村の人に聞いた。
夜が更けてから行われ、終わるのは真夜中。空が白むまで続くこともある。
いつもは途中で眠くなって帰ってしまう私なのだが、せっかくSさんも来ていることだし、今回はがんばってフル鑑賞することにした。
夕方6時くらいにAさんのお宅からお祈りに行き、そのあといったんAさんの家に戻ってご飯をいただいて、夜9時くらいから会場へ。
チャロナラン劇の基本ラインは、バロン(獅子舞の獅子のようなルックスの聖なる存在)とランダ(魔女)との闘いだが、ストーリーや構成、娯楽性や宗教性の度合いは村によって全く異なり、非常に多くのバリエーションがあるようだ。
手元の資料に載っていたチャロナランの物語をご紹介すると—
舞台は11世紀、ジャワのエルランガ王の治世。
エルランガ王の母はジャワの王女マヘンドラダッタ、父はバリの統治者ダルモダヤナであった。
マヘンドラダッタが魔術を使ったため、ダルモダヤナはマヘンドラダッタを森に追放し、別の女性と再婚した。
ダルモダヤナが亡くなったとき、マヘンドラダッタは未亡人=ランダとなった。
マヘンドラダッタは父の再婚を止めなかった息子のエルランガを恨んでいたため、弟子を集めて、エルランガが治めていた東ジャワ王国を破壊して回った。
マヘンドラダッタにはラトナ・ムンガリという美しい娘がいたが、魔女の娘であるが故に結婚相手が見つからなかった。
ラトナはカーストが高いため、カーストの高い男性と結婚しなければならない。
娘の結婚相手が見つからないこともマヘンドラダッタを苛立たせ、ランダとなったマヘンドラダッタは、弟子とともに東ジャワ王国を暴れ回り、疫病を流行らせ、王国に破壊と死をもたらした。
ランダは魔力を維持するために、赤ん坊の死体を必要としたため、娘のラトナや弟子たちを墓地に遣わし、赤ん坊の死体を漁って来させた。
エルランガはランダを破滅させようとしたが、ランダの魔力が強すぎてかなわなかったため、司祭のエンプ・プラダに助けを求めた。
エンプ・プラダはその息子または助手(どちらかは不明)のバフラを送り、ラトナと結婚させた。
二人は幸せに暮らした。
しかしバフラの本当の使命は、義理の母ランダの秘密を探り出すことだった。
バフラはついにランダの魔術書を盗みだし、それをエンプ・プラダに届けた。
エンプ・プラダはランダの魔術を使って犠牲者たちを生き返らせ、自らランダと対決した。
エンプ・プラダはまず黒魔術返しによってランダを殺し、一度生き返らせて、ランダが人間の姿をしているときに再び殺した。
以上がフルストーリーだが、よくチャロナラン劇で行われるバリエーションは—
ランダは娘のラルンに、墓地で赤ん坊の死体を漁って来るよう命令する。
ランダは祈祷のための供物が必要で、供物には赤ん坊の死体が必要だった。
ラルンは墓地に行って赤ん坊の死体(赤い布でくるまれている)を見つけ、それを生きた赤ん坊のようにあやしている。
木の陰からこれを見ていたバロンが進み出て、赤ん坊を渡すように言う。
もみあった末、バロンが赤ん坊を奪う。
ラルンは泣きながら母親ランダの元に帰るが、ランダは「赤ん坊を取ってこいと言ったのに、敵を連れてきた」と激怒する。
ランダはラルンに、バロンとの闘いに勝つことができるよう、家に帰って全ての社で祈るよう命令する。
ランダは大声を上げ、持てる魔力を結集する。
その声を聞きつけたバロンは、子分たちにランダを殺すよう命令する。
しかしランダは魔法の布によって、バロンの子分たちを打ち負かす。
ランダはバロンの子分たちを打ち負かすが、バロンそのものに勝利したわけではない。
バロン(善を象徴する)とランダ(悪を象徴する)の闘いに勝敗はない。
詰まるところチャロナラン劇の真髄は、ヒンドゥーバリ的な善と悪のバランスにあるのである。
(Bali: Sekala & Niskala Volume I: Essays on Religions, Ritual, and Art
by Fred B. Eiseman, JR.より抜粋・翻訳)
さて、プリアタン村のチャロナランは、以上のようなチャロナランの物語の間に、喜劇がサンドイッチになっている。バロンの手下の男たちがランダをクリス(剣)で刺し殺そうとする場面では、ランダの魔力によって自らにクリスを突き立てる男たちが次々にトランス状態に入ってしまい、司祭が聖水を振りかけて正気に戻す。そうかと思えば、吉本新喜劇ばりのドタバタコメディが繰り広げられ、観客はドッカンドッカン受けている。一転して、ランダのもたらす厄災によって死んだ男が墓地に運ばれる(Aさんによれば、死体役をする人は強くないと本当に死んでしまうことがあるそうだ)という不気味な場面が繰り広げられ、その後にまたドタバタコメディ、とこんな具合なのである。
途中何度も雨に見舞われながら、無事にチャロナラン劇が終了すると、真夜中の2時を回っていた。
Sさんと別れて帰る頃、雨がザーッと降ってきた。
Sさんが見たこの日のウブド:
http://www.flickr.com/photos/tm1sart/sets/72157627455681074/